2010年3月24日水曜日

ジャック・ニコルソンもお手上げ(その3)

さて、ようやく3話目から本題に入ります。

稀代の名優、ジャック・ニコルソン主演で1994年に公開された『ウルフ』は、題名どおりのオオカミ男映画でした。

そのプロモーションの一環として、映画ライターをハリウッドに招き、ニコルソンをはじめ出演者や監督を囲む取材セッションが企画されました。場所はビバリーヒルズのフォー・シーズンズホテル。費用はぜんぶ映画配給会社持ちという豪勢な旅に、なぜかベテランの映画ライターに混じって私も参加することになりました。

太平洋を飛び越えて着いたロサンゼルスの季節はたしか初夏。『SPEED』の現地から封切り間もない頃だったと思います。カラリとした風が吹き抜ける明るいホテルの一室で、中央の円卓を何人かの記者が囲み、一つだけ席を空けて待ちます。

するとそこに次々と出演者やプロデューサーや監督がやってきて、いくつかの質問に答え、笑顔で握手して、手を振り去っていく。と、また次の取材対象者がやってくる……。

そういう部屋がホテル内に他にもいくつか設けられ、地元メディアの記者やライターたちも同じスタイルでインタビューをしていたのだと思います。実に効率的な取材セッションですね。

スタローンで味をしめた私は、当然ながらニコルソンからもザウルスにサインをもらおうという考えていました。何を訊いたか今となっては覚えていませんが、質問に機嫌良く答え終え、さて席を立とうかという瞬間を狙って、ペンとザウルス(もちろん「手書きメモ」の初期画面にセットした状態で)を差し出しました。

ニコルソンは笑顔を崩さずそれを受け取り、意図を理解し、ペンでサラサラッと描こうとしましたが、どうも思うように描けません。

2、3度チャレンジしても、やはりダメ。首を横に振り、ペンをテーブルの上に投げやり、両手を開いて「お手上げ」のポーズ。

「悪いね、もう時間だよ」とでも言いたげに、部屋を去っていってしまいました。時間にして20秒ほどの出来事だったと思います。


なぜ、うまく描けなかったのでしょう。横から見ていた限りでは、黒い描線がピュッと意図しない形で直線的に伸びてしまったような感じでした。ううむ、ザンネン。その時はそれでおしまいだったのですが、このブログにそのときの様子を書こうとあれこれ考えているうち、タッチペンデバイスの隠された意図に思い至りました。

(その4)に続く