2010年2月4日木曜日

「ペンで書く技術」の先に

「ペンで文字を書く」のだって、それなりの技術がいります。

マウスやキーボードを操作するより、しっかりした文字を書くことのほうが、よほど高級な技術を必要とするだろうと思います。

ただ多くの人は、筆記という技術を人生の早い時期に習得してしまうため、あまりそれをハードルだとは感じません。

そして、最近の子供たちを見ていると、マウスとキーボードとケータイの操作は、もはやペンで書くことと同列の技術となってしまっているようです。

これが将来、問題を生んでしまうのではないかと、ひそかに心配しています。

営々と続いてきた、ユーザーインターフェイス(UI=使い勝手)を改善していく努力が、ある時点で途切れてしまうのでは……。

と心配するのは、次のような理由からです。

初めてそれに触れる人が、何にとまどい、どこにわずらわしさを感じたか。

そうした情報をどう拾い集めることができるかが、ユーザーインターフェースの改善のひとつの鍵を握っていると思います。

でも、それを触ったことのない人ばかりになり、初めてそれに触れる人がいなくなってしまうと、どこをどういじれば、改善につながるのか、判断がつかなくなる。そんな事態に陥ってしまうのではないかと……。

ひとつ記事をご紹介します。

『iPad』はUIをどう変えるか
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20100203/1022662/

記事の中では以下のように指摘されています。
  • コンピューティングというものを考えるとき、子供や高齢者のことは見落とされがちなのだが、iPadは、こうした「社会的格差」を解消する初めての製品にな る可能性がある。
  • 『iPad』は、幼児がゲームで遊び、学習もできるコンピューターになるだろう。
  • そして、おばあちゃんは電子メールを送り、ウェブを閲覧 し、写真を編集するだろう。
まったく異論はありません。異論はありませんが、そこへたどり着くまでにやらねばならないことはまだまだあり、それを普通にコンピュータを使っている人たちだけでやろうするのには、ちょっと限界があるのではないかと思うのです。

つまようじ1本で……

初めてマウスに触れる方には、その操作を、

「つまようじ1本でそうめんを食べるよりは、かんたんです」

 と申し上げています。実際に食べたことはありませんが、たぶんかなりやっかいで、もどかしい思いをすると思います。

練習すればできるようにはなるでしょうが、マウスが思うように動かせないと、そんな気持ちになるのではないかと思いまして。

コンピュータをマウスで操るには、数ピクセルしかないマウスカーソルの先っぽを望みの位置に移動させ、正確なタイミングで望む回数だけクリックし、しかもそれらをマウスを固定したまま、あるいは動かしながら、行わなければなりません。

初めての方には、技術的なことだけでなく、心理的なハードルも高いようです。

なので私は、まず最初にさわってもらう前に、古いタイプのボール駆動マウスを分解し、中身を見てもらうことにしています。

ボールを取り出し、空いた空間に指を入れると、X方向とY方向の駆動ローラーを確認することができます。

そして、ローラーを指でくるくるこするように回すと、マウスカーソルが水平方向にだけ、あるいは垂直方向だけに動くのを画面上に見ることができます。

ボールを再びはめ込んで、マウスを机上で動かしてみます。するとマウスカーソルも画面上で円を描く。

ここで必ず「おおっ!」と声が漏れますので、すかさずマウスの発明者を賞賛します。

この瞬間に生徒さんにとってマウスは、なんだかわけの分からないブラックボックスではなくなり、トンカチやバールや栓抜きなどと同様、人類の叡智が生んだ便利な道具と映るわけです。

レーザーマウスの説明は「これが進化したんです。ローラーのホコリを取る手間もなくなりましたからね」という程度ですっ飛ばしますが、こうやって分解して見せてみると、少なくとも機械そのものへの抵抗感はだいぶ小さくなってくるはず。

――という話をしていたら、妻が「ところてん(心太)は、割り箸1本で食べるものなのよ」と。中京圏の人には、そっちのたとえのほうがいいかもしれませんね。

はじめに

シニア向けのパソコン教室の先生をボランティアでやるようになって、かれこれ8年。

「まったくの初心者なんですが、大丈夫でしょうか……」

と自信なさげにやってくる方には、まず最初に
「今までパソコンに触らなかったことが、まずラッキーなんですよ」
と言うことにしています。

「パソコンを作ってきた人たちは、少しでも使い勝手を良くしてたくさんの人に使ってもらおうと、さんざん苦労をしてきました。昔パソコンに挑戦した方も、大変な思いをして操作を覚えようとした。壁にぶつかり断念した方も多かった。そのおかげで、今のパソコンはほんとうに使いやすく快適なものになっています。操作がラクチンなだけでなく、パソコンを使って得られる楽しみや実益も、すごく増えています。だから、今から始めるあなたは、ほんとうにラッキーなんですよ!」

私も、本心からそう思っていますので、自信を持って生徒さんの背中を押すことができています。

でも最初にマウス操作が、けっこう高いハードルだったりするんですけどね……。